「今日という日は、このために」
 #9 コトあるごとに、想いおこされるもの

私には、気になる腕時計が2つあります。それは、実際に身につけたものではなく、記憶の中に印象深く残っているものです。

一つは、 “スピードマスター”という腕時計。映画「地球交響曲」出演者の宇宙飛行士ラッセル・シュワイカート氏から龍村仁監督に手渡された、アポロ9号特別仕様の腕時計です。
私はコトあるごとに龍村さんから「おい、今何時だ?」と問われ、自分の腕時計に目をやりながら現在時刻を知らせていました。しかし、龍村さんの腕には、あのスピードマスターが巻かれているのです。それなのに何故こうまで現在時刻を訊かれるのか?

開発当時、NASAが無重力の宇宙空間でも確実に時が刻まれるよう、あえて自動巻きではなく手巻きの技術を選び、さらに毎日決まった時間にゼンマイを巻くことで、宇宙でも時間の観念を保つという狙いがあったようです。
地球上の龍村さんの時計は、単に巻き忘れによって止まっていたのでした。


もう一つは、“アースウォッチ”と呼ばれる2001年に上田壮一氏の手によって産声を上げた腕時計。
宇宙から見たリアルタイムの地球の姿が、もし腕時計に反映されたなら、というコンセプトで作られました。その根底には、“今”の地球の姿を感じることで、世界が抱える多くの課題も同じ一つの星の上で起こっていることを実感として捉えることができるのでは、という上田さんの思いがありました。当時、宇宙からの視座をリアルタイムで腕時計に映し出すなんて?とその発想の未来さに驚いたものです。


それが“今”どうでしょう、スマートウォッチが軽々とかなえてしまいました。でも、テクノロジーの上に乗っかって俯瞰はできたとしても、上田さんが描いた思いにはまだ届いていないように、私は感じてしまいます。

冷戦下だった1988年、シュワイカート氏が国境を越え世界の宇宙飛行士に呼びかけて作られた「地球/母なる星」(小学館)という写真集があります。そこには宇宙飛行士たちが見た地球の姿とともに、言葉が寄せられています。
その一つに
「最初の1日か2日は、みんなが自分の国を指していた。3日目、4日目は、それぞれ自分の大陸を指さした。5日目には私たちの念頭には、たった1つの地球しかなかった。」 スルタン・ビン・サルマン(サウジアラビア)

人が再び月を目指すようになった今、改めて想いおこされる言葉です。

※上田壮一:一般社団法人シンク・ジ・アース理事 http://www.thinktheearth.net/jp/